「耕す者はわたしの背を耕し畝を長く作った。」(3節 新共同訳)
聖書協会共同訳で同じ箇所を読みましたところ
「悪しき者らは私の背に鋤を当て長い畝を作った。」(3節 聖書協会共同訳)
と書かれていました。
以前からこの箇所は比喩のように読んで理解していたつもりでしたが、
耕す者が悪しき者と訳されるのならばもう一つの耕すという言葉はどうなってしまうのか、という素朴な疑問もあったので、
いつものようにBIBLE HUBで3節について調べてみることにしました。
まずは「背」。
これはgab·bîという言葉で גַבּ gab がもとになっているようでした。
https://biblehub.com/hebrew/1354.htm
で、この単語には背という意味はあるのですが、新共同訳聖書の翻訳で言うところの
ヨブ記13章の(土くれの盾にすぎない)弁護という部分がこの語であり、同じくヨブ記15章の厚い盾という部分がこの語。そしてエゼキエル書16章の祭儀台という言葉がこの語なのだとかいてありました。
そしてStrong's Exhaustive Concordanceによるとgabというのはthe top or rim, a boss, a vaultだということなので、
背も形状としてのイメージがそうなのかもしれません。
次は「畝」。
https://biblehub.com/hebrew/4618.htm
מַעֲנָה maanahとあり
サムエル上14:14 と詩編129:3に登場する単語なのだそうです。
で、maanahという語はanahが起源だと書いてあったのでanahのページを見ると
https://biblehub.com/hebrew/6030b.htm
意味としてto be occupied busiedと書いてありました。
何だかとても忙しそうな言葉でありますが、
とにかく何か一定の範囲をいっぱいにしてしまって他のものが入らないような状況が頭の中にイメージされました。
たしかに、日本語で考えると畝というのは作物を植えるために盛り上げた土のことですから畑一面につくるわけで、maanahという語がanahが起源だというのは理解できます。
で、NASBはanahにafflicted (1), keeps him occupied (1), occupy (1)という語を訳語として当てているということでした。
そして鋤。
charashだそうです。意味はto cut in, engrave, plow, devise
https://biblehub.com/hebrew/2790.htm
129編の3節全体を眺めるとcharashの形の変わったものが2度登場していてその一方が耕す者と訳されている。
ヘブライ語と英語を並記しているものを参考にすると
https://biblehub.com/interlinear/psalms/129-3.htm
(鋤で)耕作する者が私の背中を耕して長い畝を作る、ということで、新共同訳の訳と同じように読めます。
聖書協会共同訳はギリシャ語の底本から翻訳して「悪しき者ら」としたと言っていますが、それはヘブライ語をあたっただけではわからないということなのですね。
しかしそれにしてもギリシャ語の底本は鋤で耕す人を悪しき者としているのだとすると、charashという鋤にあたる言葉自体にも本当は何か良くないイメージがあるのかもしれません。
鋤は鍬と違って、地面に刃を刺して土を向こうに押しだすようにして使う道具ですから、耕作すると言っても鍬とは違って向こうに向けて刺すというのがよろしくないイメージなのかなぁ。
以上のことをまとめると
「耕す者」はわたしの「背gab」を「耕しcharash」「畝を長くanah」作った
→悪い者たちがイスラエルの「背gab」を「耕しcharash」「長い畝anah」を作った
→悪い者たちがイスラエルの「アーチ型の突起部gab」を「鋤で突き刺すようにしてcharash」「占領したanah」
→悪い者たちがイスラエルの「丘gab」の「住民を襲って追い出しcharash」「占領したanah」
悪い者たちがイスラエルの丘の住民を襲って追い出し占領した???
6節のことを踏まえるとこの悪い者たちとはアッシリアのことでしょうか。
「抜かれる前に枯れる屋根の草のようになれ。」(6節 新共同訳)
6節のこのみことば、
「屋根の草」と言えばイザヤ書37章27節そして列王記下19章26節です。
「穂をつける前にしなびる屋根に生える草のようになった。」(新共同訳)
「育つ前に干からびる屋根の草のようになった。」(新改訳)
Psalm 129:6
as the grass(ka-ḥă-ṣîr)[on] the housetops(gag-gō-wṯ;)
Isaiah 37:27
the grass(ḥă-ṣîr) on the housetops(gag-gō-wṯ,)
「屋根の草」・・・
なんとなくこの「屋根」は、形状からするともしかしたら「背」と同じヘブライ語gabなのでは ?と思って調べたら
gag·gō·wṯ
違いました(笑)gabではなくてgagでした。
129編
1節 šîr, ham-ma-‘ă-lō-wṯ rab-baṯ ṣə-rā-rū-nî min-nə-‘ū-ray; yō-mar- nā yiś-rā-’êl.
2節 rab-baṯ ṣə-rā-rū-nî min-nə-‘ū-rāy; gam lō- yā-ḵə-lū lî.
3節 ‘al- gab-bî ḥā-rə-šū ḥō-rə-šîm; he-’ĕ-rî-ḵū, [lə-ma-‘ă-nō-w-ṯāmḵ] (lə-ma-‘ă-nî-ṯām.q)
4節 Yah-weh ṣad-dîq; qiṣ-ṣêṣ, ‘ă-ḇō-wṯ rə-šā-‘îm.
5節 yê-ḇō-šū wə-yis-sō-ḡū ’ā-ḥō-wr; kōl, śō-nə-’ê ṣî-yō-wn.
6節 yih-yū ka-ḥă-ṣîr gag-gō-wṯ; šeq-qaḏ-maṯ šā-lap̄ yā-ḇêš.
7節 šel-lō mil-lê ḵap-pōw qō-w-ṣêr, wə-ḥiṣ-nōw mə-‘am-mêr.
8節 wə-lō ’ā-mə-rū hā-‘ō-ḇə-rîm, bir-kaṯ- Yah-weh ’ă-lê-ḵem; bê-raḵ-nū ’eṯ-ḵem, bə-šêm Yah-weh.
gab gagということに気付いたので transliterationを書き写してみましたが
音として眺めると韻を踏んでいるとかそういう技巧的なこともあるのでしょうか。
音を楽しみながら、イスラエルならばだれもが記憶にあることを語り賛美する
そういう作品なのでしょうか。
しかしいずれにしても「背中を耕されたらいたいよね~苦しいよね~」ということではないような気がしました。(ざっくりとそう思っていたので)