新共同訳聖書の詩編46編の7節に「地は溶け去る」という表現があります。
すべての民は騒ぎ、国々は揺らぐ。神が御声を出されると、地は溶け去る。
聖書協会共同訳でも同じく
すべての民は騒ぎ、もろもろの王国は揺らぐ。神が声を出されると、地は溶け去る。
と書いてあります。
どうでもいいと言ってしまえばどうでもいいかもしれないのですが、
地が「溶け去る」とはどういう意味なのかちょっと興味がありましたので、いつものようにBIBLE HUBでヘブライ語聖書を眺めてみました。
BIBLE HUBで調べる場合には底本の関係で詩篇46篇6節を見ます。
https://biblehub.com/psalms/46-6.htm
תמוגtā-mūḡというヘブライ語がmeltという意味を表していました。
この形ではこの詩篇46篇のところだけですが、
Strong's Hebrew 4127 תのつかない形のמוגは聖書の中に17回登場します。
17か所を引用してみます。(引用は口語訳聖書)
出エジプト記15章15節
エドムの族長らは、おどろき、モアブの首長らは、わななき、カナンの住民は、みな溶け去った。
ヨシュア記2章9節
そして彼らに言った、「主がこの地をあなたがたに賜わったこと、わたしたちがあなたがたをひじょうに恐れていること、そしてこの地の民がみなあなたがたの前に震えおののいていることをわたしは知っています。
ヨシュア記2章24節
そしてヨシュアに言った、「ほんとうに主はこの国をことごとくわれわれの手にお与えになりました。この国の住民はみなわれわれの前に震えおののいています」。
サムエル記上14章16節
ベニヤミンのギベアにいたサウルの番兵たちが見ると、ペリシテびとの群衆はくずれて右往左往していた。
ヨブ記30章22節
あなたはわたしを揚げて風の上に乗せ、大風のうなり声の中に、もませられる。
詩篇65篇10節
あなたはその田みぞを豊かにうるおし、そのうねを整え、夕立ちをもってそれを柔らかにし、そのもえ出るのを祝福し、
詩篇75篇3節
地とすべてこれに住むものがよろめくとき、わたしはその柱を堅くする。〔セラ
詩篇107篇26節
彼らは天にのぼり、淵にくだり、悩みによってその勇気は溶け去り、
イザヤ書14章31節
門よ、泣きわめけ。町よ、叫べ。ペリシテの全地よ、恐れのあまり消えうせよ、北から煙が来るからだ。その隊列からは、ひとりも脱落する者はない」。
イザヤ書64章7節 英訳でconsumedにあたるところはどこだろう・・・渡されたかな???
あなたの名を呼ぶ者はなく、みずから励んで、あなたによりすがる者はない。あなたはみ顔を隠して、われわれを顧みられず、われわれをおのれの不義の手に渡された。
エレミヤ書49章23節
ダマスコの事について、「ハマテとアルパデは、うろたえている、彼らは悪いおとずれを聞いたからだ。彼らは勇気を失い、穏やかになることのできない海のように悩む。
エゼキエル書21章15節(新共同訳では21章20節の「心は溶け」)
これがために彼らの心は溶け、多くの者がすべての門に倒れる。わたしはひらめくつるぎを彼らに送る。ああ、これはいなずまのようになり、人を殺すためにみがかれている。
アモス書9章5節
万軍の神、主が地に触れられると、地は溶け、その中に住む者はみな嘆き、地はみなナイル川のようにわきあがり、エジプトのナイル川のようにまた沈む。
アモス書9章13節
主は言われる、「見よ、このような時が来る。その時には、耕す者は刈る者に相継ぎ、ぶどうを踏む者は種まく者に相継ぐ。もろもろの山にはうまい酒がしたたり、もろもろの丘は溶けて流れる。
ナホム書1章5節
もろもろの山は彼の前に震い、もろもろの丘は溶け、地は彼の前にむなしくなり、世界とその中に住む者も皆、むなしくなる。
ナホム書2章6節
川々の門は開け、宮殿はあわてふためく。
引用以上
ヘブライ語にあてられている英語と口語訳聖書の日本語の表現に違いがあるのでどこが
מוגなのか、イザヤ書のところではかなり迷いました。間違っている可能性も高いのでBIBLE HUB等々コンコルダンス等でご確認いただければと思いますが
全体的な印象として
מוגの「溶ける、柔らかい」という意味は、硬い岩盤の真逆=岩なる主の真逆、
神さまを土台としていない人々が何かわざわいがもたらされて動揺してしまうさまを表現しているような感じがしました。
また、無力、無秩序という意味でも神さまと真逆なさまを表現している感じがしました。
ところで、このヘブライ語に該当するギリシャ語は何かないでしょうか・・・
柔という文字で聖書協会の本文検索をかけると新約では「柔和」がたくさんヒットしますが柔らかそうな言葉がなかなか見つからず
溶けそうなものもなく
地が溶け去るようなイメージと言えば黙示録か、ということでイメージに合ったような会っていないような文を書き出してみます。
6章14節
天は巻物が巻かれるように消えていき、すべての山と島とはその場所から移されてしまった。
καὶ ὁ οὐρανὸς ἀπεχωρίσθη ὡς βιβλίον ἑλισσόμενον, καὶ πᾶν ὄρος καὶ νῆσος ἐκ τῶν τόπων αὐτῶν ἐκινήθησαν.
口語訳聖書だと「消えていき」とありますが、
ἀπεχωρίσθηは「分離する」という意味です。
16章20節
島々はみな逃げ去り、山々は見えなくなった。
καὶ πᾶσα νῆσος ἔφυγεν, καὶ ὄρη οὐχ εὑρέθησαν.
ἔφυγενは文字通り「逃げる」エスケイプという意味のようです。
20章11節
また見ていると、大きな白い御座があり、そこにいますかたがあった。天も地も御顔の前から逃げ去って、あとかたもなくなった。
Καὶ εἶδον θρόνον μέγαν λευκὸν καὶ τὸν καθήμενον ἐπ’ αὐτόν οὗ ἀπὸ τοῦ προσώπου ἔφυγεν ἡ γῆ καὶ ὁ οὐρανός, καὶ τόπος οὐχ εὑρέθη αὐτοῖς.
ここでも16章20節と同じἔφυγενが使われています。逃げちゃったんですねえ。
21章1節
わたしはまた、新しい天と新しい地とを見た。先の天と地とは消え去り、海もなくなってしまった。
Καὶ εἶδον οὐρανὸν καινὸν καὶ γῆν καινήν· ὁ γὰρ πρῶτος οὐρανὸς καὶ ἡ πρώτη γῆ ἀπῆλθαν, καὶ ἡ θάλασσα οὐκ ἔστιν ἔτι.
ἀπῆλθανは離れる、出発する、去る、亡くなるという意味だそうです。
「(海も)なくなってしまった」という言葉はοὐκ ἔστιν ἔτιですから
οὐκ(not) ἔστιν(exist) ἔτι(any longer)なので、
結局表現している人々の物の見方が違うということでしょうか。
「溶けちゃう」という発想は
地震による液状化か、火山の噴火による溶岩の流出とそれが固まる様子を観察したことのある人々の発想
あ、液状化はともかく、地震で揺れる・・・という発想はギリシャ語にもあるのかもしれませんね「動かない岩なる主」に対して「地面が揺れる地震」
マタイによる福音書24章29節
しかし、その時に起る患難の後、たちまち日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、星は空から落ち、天体は揺り動かされるであろう。
Εὐθέως δὲ μετὰ τὴν θλῖψιν τῶν ἡμερῶν ἐκείνων ὁ ἥλιος σκοτισθήσεται, καὶ ἡ σελήνη οὐ δώσει τὸ φέγγος αὐτῆς, καὶ οἱ ἀστέρες πεσοῦνται ἀπὸ τοῦ οὐρανοῦ, καὶ αἱ δυνάμεις τῶν οὐρανῶν σαλευθήσονται.
Strong's Greek 4531 σαλεύω saleuó
Definition: to agitate, shake, to cast down
この単語には物理的に揺れる震えると言うところから派生して動揺させたり落胆させるという意味があるようです。
詩篇46篇では「溶け去る」前に「揺らぐ」という言葉がありました。
Strong's Hebrew 4131 מוֹט mot
Definition: to totter, shake, slip
揺れてよろめいてぐらついて不安定で滑って落ちてしまうような意味のようです。
מוֹטのテットをタヴに替えると「死」מוּתだ・・・