2012年3月26日月曜日

寺田寅彦 津浪と人間

洗濯物を干しながらNHKラジオを聴いていたら、何かを朗読している。
「ああ、そうか『朗読の時間』だ」
以前は聴くこともあったけれど最近は余り聴くことのなかった番組だ。


「…災害直後時を移さず…詳細な調査をする。そうして周到な津浪災害予防案が考究され、発表され、その実行が奨励されるであろう」


私はてっきり東日本大震災にまつわる随筆が朗読されているものだと思った。
しかし、じーっと耳を傾けているうちに何か妙なことに気付いた。


「地震や津浪は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである。紀元前二十世紀にあったことが紀元二十世紀にも全く同じように行われるのである」

ん?紀元二十世紀?


そしてその短い番組の終わりに、作品のタイトルと作者がアナウンスされた。
「津浪と人間 寺田寅彦」

戦前にご活躍であった地球物理学者の寺田寅彦先生の作品だったのだ。
昭和8年の随筆に何か最近のことを感じるというというのは
…当時の先生がすごかったということだけでなく、おそらく我々がこんな(以下に引用するような)ものだからなのだろう。


三陸災害地を視察して帰った人の話を聞いた。ある地方では明治二十九年の災害記念碑を建てたが、それが今では二つに折れて倒れたままになってころがっており、碑文などは全く読めないそうである。またある地方では同様な碑を、山腹道路の傍で通行人の最もよく眼につく処に建てておいたが、その後新道が別に出来たために記念碑のある旧道は淋れてしまっているそうである。それからもう一つ意外な話は、地震があってから津浪の到着するまでに通例数十分かかるという平凡な科学的事実を知っている人が彼地方に非常に稀だということである。前の津浪に遭った人でも大抵そんなことは知らないそうである。


津浪と人間は以下のリンク先、青空文庫サイトで無料で読めます。
津浪と人間 http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/4668_13510.html


NHK朗読の時間2012年3月の放送予定 http://www.nhk.or.jp/r2bunka/roudoku/1203.html